映像歌詞に惚れ込む洋楽

"Man in the Mirror" Michael Jackson(ショートフィルム映像解説/研究)

 

MTVが1981年8月1日に放送開始したことによって、それまでの音楽の聴き方が変わり始めました。1980年代以降、音楽は聴くだけではなく、映像も同時に楽しむ総合芸術へと変貌を遂げます。

しかし、音だけでなく映像も付加されたことで、「ただビジュアルだけが良く、音楽の質は下がった」という弊害も生まれました。音楽自体はさほど良くなくても、性的なイメージを連想させる映像やルックスの良さだけなどにより、音楽がブレイクしたこともありました。

ただ、音楽が映像とコラボしたことは、マイナス面だけを生んだわけではありません。音楽に映像がリンクされたことにより、歌詞のメッセージがより強調されるというメリットも誕生したのです。

マイケル・ジャクソンは、映像の力を直感的に理解していました。マイケル・ジャクソンの曲は音だけでも素晴らしいのですが、映像と合わせて聴くことで感動が更に増していきます。マイケルの逸脱したダンス能力も、彼の音楽作品の芸術性を高めていくことになります。

マイケルは、80年代にたくさんの名曲&映像をMTVで拡散していきました。そういう意味でマイケルは「MTV時代の申し子」といってもいいのかもしれません。

Copyright© Epic, Man in the Mirror

Copyright© Epic, Single Cover of Man in the Mirror

初めて "Man in the Mirror" の映像を観たとき、あまりにも内容が濃すぎて呆然としました。その後、何度も何度も何度も繰り返し観ました。そして、ひとつひとつの映像の背景を知りたくなりました。

その後、自分でホームページを作り、この曲の動画を検証した記事を、画像を交えて書きました。当時はネットで検索しても、画像付きで詳しく説明しているサイトがありませんでした(海外のサイトで、画像と説明は多くありませんでしたが、ひとつ見つけることができました)。でも検証作業はとっても楽しかったです。無知だったから(今でもそうですが)、色々な人に尋ねたなぁ。

もうこのHPは閉鎖しましたが、また新たに"Man in the Mirror"について書いてみたくなりました。

前置きが長くなりましたが、こういうわけで、今回は「マン・イン・ザ・ミラー」のショートフィルムの映像を、細かく鑑賞していくことで、マイケル・ジャクソンが、この曲にこめたメッセージを研究していきます。

映像解説


From: Michael Jackson, Upload Date: 2009/10/02

以下では、ショートフィルムで使用された映像の解説を書いておきます。分かったものだけを取り上げました(まだ全て理解したわけではないのです)。画像はすべて、上記のYouTubeの公式動画からのものとなります。

画像出典:YouTube

マーティン・ルーサー・キング・Jr牧師(00:25-, 2:00-, 3:18-)

マーティン・ルーサー・キング・Jr牧師(Martin Luther King Jr., 1929-1968)

Martin Luther King

Martin Luther King

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるキング牧師

Martin Luther King Jr.

1963年ワシントン大行進で、"I have a dream"(私には夢がある)という人種差別の撤廃を訴えた有名なスピーチを行いました。

"Man in the Mirror" で使用された映像は、キング牧師が暗殺される前日1968年4月3日に行った最後のスピーチのときのものです。キング牧師が最後に行ったスピーチはこちら↓で詳しく書きました。

1964年、キング牧師はノーベル平和賞を受賞しました。

デズモンド・ムピロ・ツツ大主教(00:58-, 3:04-)

デズモンド・ムピロ・ツツ大主教(Desomond Tutu, 1931-
南アフリカの平和運動家。

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるデズモンド・ツツ大主教

Desmond Tutu

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるデズモンド・ツツ大主教

Desmond Tutu

南アフリカでの人種差別アパルトヘイト(apartheid)撤廃を非暴力で訴えました。

1975年、ヨハネスブルグで黒人として初めて州司祭長となります。1986年、ケープタウンで黒人初の大主教に任命されました。

1984年に、デズモンド・ムピロ・ツツはノーベル平和賞を受賞しました。

レフ・ワレサ(ヴァウェンサとも表記される)(01:07-, 03:01-)

レフ・ワレサ(レフ・ヴァウェンサとも表記される)(Lech Wałęsa, 1943-
ポーランド民主化運動の指導者。

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるワレサ/ヴァウェンサ

Lech Wałęsa

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるワレサ/ヴァウェンサ

Lech Wałęsa

ポーランド民主化運動に大きく貢献しました。1990年、国民の直接選挙によって選ばれた初めての大統領(1990-1995年)となりました。

1983年に、彼はノーベル平和賞を受賞しました。

KKK (1:14-, 1:24-, 1:42-)

KKK

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるKKK

KKK

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるKKK

KKK

Man in the Mirrorに出てくるKKKの画像

KKK

アドルフ・ヒトラー (01:18-)

アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler, 1889-1945)

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるヒトラー

Adolf Hitler

Man in the Mirrorで出てくるHate Busには、アメリカのナチが運転しています。

Man in the Mirror のショートフルムに出てくるバス

Man in the Mirror: Hate Bus

アメリカのナチのヘイトバスについて、以下のサイトでたくさんの写真を掲載しています。

ジョン・レノン&オノ・ヨーコ (01:29-)

ジョン・レノン&オノ・ヨーコ(John Lennon, 1940-1980)(小野洋子, 1933-)

Man in the Mirrorに出てくるJohn & Yokoの画像

John & Yoko

ビートルズ(The Beatles, 1962-1970)メンバーの一人だったジョン・レノンは、前衛芸術家のオノ・ヨーコと1969年に結婚します。

翌70年にビートルズが解散したことから、オノ・ヨーコに「ビートルズを解散させた女」という非難の声があがりましたが、ジョン&ヨーコは当時、激化していったベトナム戦争に反対、平和活動を展開していきます。下記のページでは、名曲イマジンがどのように創られたのか、まとめてみました。

 

 

Man in the Mirrorに出てくるJohn Lennonの画像

Man in the Mirror: John Lennon

1980年12月8日、ジョン・レノンはオノ・ヨーコの目の前で、マーク・チャップマンという男性に射殺されて亡くなりました。

ジョン・F・ケネディ (01:47-, 02:06-)

ジョン・F・ケネディ
(John F. Kennedy, 1917-1963)
アメリカ第35代大統領(1961-63)

Man in the Mirrorに出てくるJFKの画像

John F. Kennedy

リンカーンがちょうど100年前の1863年に奴隷解放宣言を発布したのにもかかわらず、100年後のケネディの時代になっても、黒人には公民権がありませんでした。

ケネディは、キング牧師の公民権運動を支持する形で、1963年6月11日公民権法案を議会へ提案する演説を行います。

1963年8月28日、ワシントン大行進でキング牧師が"I have a dream"演説を行いますが、その後、ケネディはキング牧師をホワイトハウスに招待し「私も夢見ている」と語ります。

しかし、3ヶ月後の1963年11月22日、ケネディはテキサス州ダラスで暗殺されることになりました。

公民権法案は、ケネディの意志の元、1964年リンドン・ジョンソン政権下で立法化されました。

下の写真はケネディの国葬の模様です。

Man in the Mirrorに出てくるケネディ国葬の画像

John F. Kenned

下の写真は、国葬の時の妻ジャクリーンと子供たちです。

Man in the Mirrorに出てくるジャクリーン・ケネディの画像

Jacqueline Kennedy

ロバート・ケネディ (02:12-)

ロバート・ケネディ(Robert Kennedy, 1925-1968)
ジョン・F・ケネディの弟。

マフィアを始めとする組織犯罪の撲滅、人種問題に積極的に関わっていました。

1968年民主党の大統領選候補選挙に出馬同年6月5日に、カリフォルニア州予備選挙で勝利を収めた直後、暗殺されて翌日6月6日に亡くなりました。

勝利宣言をするロバート

Robert Kennedy

頭を狙撃されたロバート

Man in the Mirrorに出てくるロバート・ケネディの画像

Robert Kennedy

ロバート・ケネディの行った演説について、以下のページで書きました。

 

ムアンマル・ムハンマド・アル=カッザーフィー(カダフィ大佐) (02:29-)

ムアンマル・ムハンマド・アル=カッザーフィー(カダフィ大佐)
(Mu'ammar Muhammad al-Qadhāfī,1942-)

1969年のリビア革命の指導者。

Man in the Mirror_Quadhafi

Man in the Mirror_Quadhafi

1969年のリビア革命のとき、カダフィはまだ27歳でしたが、無血クーデターにより、王制を倒して軍事政権を作りました。リビアの豊富な石油資源により、カダフィは絶対的な権力を維持しましたが、国内の自由な発言や外国文化との接触の自由は国民から奪っていました。

2011年アラブの春の民主化運動により、カダフィ大佐は殺害されました。

レバノン内戦(1975-1990)でのベイルート (02:35-)

爆破されるベイルートの街(レバノンの首都)

Man in the Mirrorに出てくるBeirutの画像

Man in the Mirror_Beirut

ピーター・ウィレム・ボータ (02:41-)

ピーター・ウィレム・ボータ
(PieterWillem Botha, 1916-2006)

Man in the Mirrorに出てくるピーター・ウィレム・ボータの画像

Man in the Mirror_Piter Willem Botha

南アフリカ共和国の首相(1978-84)
南アフリカ共和国の大統領(1984-89)

ボータは、アパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃に対して強く抵抗し、アパルトヘイト存続に強く働きかけました。

私は最初に映像を観たとき、ゴルバチョフかと思ってしまいました。

ベトナム戦争(Vietnam War)で爆弾を落とすB52 (02:51-)

ベトナム戦争(Vietnam War)で爆弾を落とすB52

Man in the Mirrorに出てくるB52の画像

Man in the Mirror_B52

初飛行は1952年、運用開始したのが1955年。初参戦はベトナム戦争となります。1965年に、リンドン・ジョンソン米大統領は、トンキン湾事件報復を口実に、北ベトナムへの爆撃(北爆)を命じます。連日、B52 が北ベトナムの首都ハノイなどに無差別爆撃を行いました。

ベトナム戦争では、第二次世界大戦で投下された爆弾の量を大きく凌ぐ無差別爆撃を行い、B52は「死の鳥」と恐れられました。

キャンプデービット合意:ベギン、カーター、サダト (02:56-)

Camp David Agreement (1978)

キャンプ・デービット合意。1978年アメリカ、エジプトとイスラエルの三ヶ国首脳が署名した合意。翌年、エジプトとイスラエル間に平和条約が結ばれました。(しかし、エジプト・イスラエル平和条約により、中東和平は実現しませんでした。)

下の写真は、右からベギン、カーター、サダトです。

Man in the Mirrorに出てくるベギン、カーター、サダトの画像

Man in the Mirror_Begin, Carter and Sadat

イスラエル:メナハム・ベギン首相
アメリカ:ジミー・カーター大統領
エジプト:ムハンマド・アンワル・アッ=サダト大統領(1981年に暗殺されました)

1978年、ベキンとサダトはノーベル平和賞を受賞します。

ミハイル・ゴルバチョフ (02:58-)

ミハイル・ゴルバチョフ
Mikhail Gorbachev, 1931-
ソビエト連邦最後の最高指導者。

ペレストロイカ(改革)グラスノスチ(情報公開)に積極的に取り組み、社会主義諸国の民主化の契機となりました。冷戦終結に大きく貢献することになります。

1990年ノーベル平和賞を受賞します。

下の写真は、アメリカ第40代大統領ロナルド・レーガン(Ronald Reagan, 1911-2004)と握手するゴルバチョフです。

Man in the Mirrorに出てくるゴルバチョフの画像

Man in the Mirror_Gorbachev

レーガンとは4回、首脳会談を行いました。

1985年11月:ジュネーブ
1986年10月:レイキャビク
1987年12月:ワシントンDC
1988年6月:モスクワ

なかでも1987年ワシントンで行われた首脳会談でINF条約(中距離核戦力全廃条約)に二人が調印したことは西と東に大きな緊張緩和をもたらしました。

そして、その後のマルタ会談(1989年12月)でジョージ・W・H・ブッシュ大統領と会談。冷戦の終結を宣言することになります。

マハトマ・ガンジー (03:19-)

マハトマ・ガンジー
Mohandas Gandhi, 1869-1948
インド民族独立運動の指導者

Man in the Mirrorに出てくるガンジーの画像

Man in the Mirror_Gandhi

Man in the Mirrorに出てくるガンジーの画像

Man in the Mirror_Gandhi

非暴力で独立を勝ち取ったそのやり方はキング牧師に大きな影響を与えました。

マザー・テレサ (03:25-)

マザー・テレサ
Mother Teresa, 1910-1997
マケドニア生まれのカトリック修道女

Man in the Mirrorに出てくるマザーテレサの画像

Man in the Mirror_Mother Teresa

カルカッタを中心に飢餓に苦しむ人たちを献身的に助けてきました。

マザーテレサも、ノーベル平和賞を受賞しました。1979年のことです。

ジェシカ・マクルーア (03:43-)

ジェシカ・マクルーア
(Jessica McClure)
(1986年3月26日生)

Man in the Mirrorに出てくるジェシカちゃん救出の画像

Man in the Mirror_Jessica McClure

Man in the Mirrorに出てくるジェシカちゃん救出の画像

Man in the Mirror_Jessica

1987年10月14日にテキサス州ミッドランドで18ヵ月のジェシカちゃんが井戸の中に落ちるという事件が起こります。

14日~16日(58時間)かけてレスキュー隊がジェシカちゃんをわずか幅20cmの井戸のパイプから救出することに成功しました。

ウィリー・ネルソン&ファーム・エイド (04:16-, 04:18-)

ウィリー・ネルソン
(Willie Nelson, 1933- )

Man in the Mirrorに出てくるウィリー・ネルソンの画像

Man in the Mirror_Willie Nelson

ファーム・エイド
Farm Aid, 1985-)

アメリカで行われるチャリティーコンサートです。1985年9月シカゴで第一回コンサートが開催されました。

Man in the Mirrorに出てくるファーム・エイドの画像

Man in the Mirror_Farm Aid

ファーム・エイドについて、以下のサイトに詳しく説明してあります。

ボブ・ゲドルフ & ライブ・エイド (04:20-)

ライブエイド

Live Aid, 1985年7月13日

Man in the Mirrorに出てくるライブ・エイドの画像

Man in the Mirror_Live Aid

「一億人の飢餓を救う」というスローガンのもとアフリカ難民救済を目的として行われたチャリティーコンサートです。1985年7月13日に、ウェンブリー・スタジアム(イギリス)とJFKスタジアム(アメリカのフィラデルフィア)の2大陸で行われました。20世紀最大のチャリティーコンサートとなりました。

ボブ・ゲルドフ
(Bob Geldof, 1951-)

Man in the Mirrorに出てくるボブ・ゲドルフの画像

Man in the Mirror_Bob Geldof

ボブ・ゲルドフの発案により、ライブ・エイドが開催されました。ゲルドフは、アイルランドのバンド、ブームタウン・ラッツのボーカルでした。

マイケル・ジャクソン (04:41-)

真ん中の赤いジャケット着ている人、マイケル・ジャクソン(Micheal Jackson)でございます。

Man in the Mirrorに出てくるマイケル・ジャクソンの画像

Man in the Mirror_Michael Jackson

このショート・フィルムでは唯一の登場シーンですね。

Earthrise 月から昇る地球 (04:45-)

1968年12月24日のクリスマスイブに、アポロ8号により撮影された、月からの地球の写真。人類が初めて目にした地球の姿は、世界の意識を劇的に変えました。

Man in the Mirrorに出てくる地球の画像

Man in the Mirror_Earthrise

「マン・イン・ザ・ミラー」のショートフィルムの最後に、月の向こう側に浮かぶ地球の写真。国境線のない一つの地球を見せることで、人類はひとつだということ、地球環境を大切にしようということ、こういったメッセージがこめられているのではないでしょうか。

まとめ

This Is Itは、マイケル・ジャクソン最後の世界コンサートツアーのリハーサルの様子を収録した作品です。ご覧になった方はとても多いと思います。

もし、このコンサートが現実に行われたとしたら、最後の曲は、『マン・イン・ザ・ミラー』("Man In the Mirror"の予定でした。このThis Is It のツアーだけでなく、マイケル・ジャクソンは世界ツアーの締めくくりにこの曲をよく選びました。つまりこの曲は、マイケル・ジャクソンの最後のメッセージが詰まった曲なのだと思います。

僅か5分の映像に、現代(特に第二次世界大戦以降)の歴史情報がこんなにも詰まっていました。争いや戦争を繰り返す人類は愚かで、自分達にできることは何もないように思えてきます。しかし、いつでも出発点は「鏡に映る自分」。うまくいかないなら、今までの自分のやり方を変えてみる。些細なことでも。

これからも、自分の中心がぶれそうになったらMan in the Mirror のショートフィルムを繰り返し観ることになりそうです。

長い文章を最後まで読んでくださって、どうもありがとうございました。

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