
Artist: Pete Linforth
2018年に英語の原著、そして2019年1月に日本語訳が出版され、大変な話題となった『ファクトフルネス』。都内の本屋を数軒チェックしてみましたが、すべての本屋で一番目立つところに、この本が山積みに置かれていました。そして、帯にはこんなコピーが。
ビル・ゲイツ大絶賛、大卒の希望者全員にプレゼントまでした名著
『ファクトフルネス』の帯の引用
こんなコピーに惑わされるのはなんだかシャクですが、でも、ビル・ゲイツがオススメする本は、結構いつもいいんですよね。
特に購入予定がなかったのですが、ついつい私は本を手に取り、「ハンス・ロスリングじゃない!」と喜び勇み、衝動買いしてしまいました。そして、色々と考えさせてくれました。
というわけで、今日は、話題の図書『ファクトフルネス』を取り上げたいと思います。

翻訳本『ファクトフルネス』(2019)

英語版 Factfulness (2018
著者ハンス・ロスリングって?
ハンスはスウェーデン出身の医師です。他にも色々肩書きがあるので、まとめてみます。
ハンス・ロスリングって?
- スウェーデン出身
- 医師
- カロリンスカ研究所の国際保健学の教授
- 公衆衛生学者
- 教育者
- 世界保健機構・ユニセフのアドバイザー
- スウェーデンにおける国境なき医師団を立ち上げる
- ギャップマインダー財団の設立
ハンス・ロスリングのTED Talks 10本
ハンス・ロスリングといえば、TED Talks でお馴染みの名スピーカー。ハンスは、熱意溢れるユーモアに富んだトークを10本もTED Talksで披露しました。
ハンス・ロスリングのTED Talksでの講演すべて10つ
ハンス・ロスリング:TED Talks10本のスピーチ
- 「最高の統計について披露」2006年2月
- 「貧困に対する新たな洞察を示します」 2007年3月 ハンスは、剣飲みの芸を、このスピーチの最後で披露しています。
- 「HIV考察:新たな事実と驚愕のビジュアルデータ」2009年2月
- 「私のデータセットであなたのマインドセットを変えてみせます」2009年6月
- 「アジアの台頭は果たしていつか?」2009年11月
- 「地球規模の人口増加について」 2010年6月
- 「10年の良いニュース?」2010年9月
- 「魔法の洗濯機」2010年12月
- 「宗教と赤ちゃん」2012年4月
- 「世界について無知にならないために」2014年4月息子オーラとの共演。『ファクトフルネス』で取り上げたクイズもこの講演で紹介しています。
『ファクトフルネス』の3人の著者
『ファクトフルネス』の著者は、三人です。ハンス・ロスリング、そして、息子のローラ・ロスリングと息子の妻アンナ・ロスリング・ロンランドです。

出典: Wikipedia, Anna Rosling Rönnlund, Hans Rosling, and Ola Rosling
この本の「はじめに」にも書かれてありますが、息子のオーラとその妻アンナが、データを解析、見やすく工夫しました。ハンスといえば、動くバブルチャートですが、その設計や開発も二人のおかげです。所得の違いによって、いかに生活が変わるのか分かりやすくした画像「ドル・ストリート」もアンナのアイデアでした。
ドル・ストリート
高学歴ほど間違える?話題の12のクイズ
さて、この本の冒頭に登場する12のクイズ。かなり話題となりましたよね。
チンパンジーよりも私たち人間の方が正答率が低い、と煽られています。
いかに私たちは世界を間違った思い込みで見ているか。
ノーベル賞受賞者だろうが、教授だろうが、正答率が著しく悪いというクイズです。
この本の翻訳者の一人、上杉周作が、以下のサイトで12のクイズを紹介しています。上杉周作は翻訳者だけでなく、IT技術者でもあります。シリコンバレーでプログラマーやデザインを経験した人だけあって、見やすく取り掛かりやすいクイズになっています。まず、以下の説明を読む前に、あらかじめクイズをやってみてください。
分断本能「世界は分断されている」?
第1章で詳細に取り上げられたのは、「分断本能」です。
世界は分断されていると思い込んでいる人が多いというもの。
特に、「先進国」VS「発展途上国」の対立。「金持ち」VS「貧乏」など。
「途上国」という単語は時代遅れ
実際、データを分析すると、もはや世界は2つに分断されていないとのこと。「途上国」という単語は時代遅れであることを、ハンスは指摘しました。
結果、世界銀行は「途上国」(developping countries)という単語の使用を控えることにしたようです。
『ファクトフルネス』第1問:正答率7%
さて、第1章で、具体的に分析したクイズは2問。まずは、1問目です。
せっかくですから、英語 ⇨ 日本語 でクイズを見てみます。英語はGapminderで公表されているものを引用させていただきました。日本語は、翻訳本から引用させていただきました。
第1問
In all low-income countries across the world today, how many girls finish primary school?
A: 20 percent
B: 40 percent
C: 60 percent
日本語訳
現在、低所得に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A: 20 %
B: 40 %
C: 60 %
正答
C: 60 %
『ファクトフルネス』第2問
第2問
Where does the majority of the world population live?
A: Low-income countries
B: Middle-income countries
C: High-income countries
日本語訳
世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?
A: 低所得国
B: 中所得国
C: 高所得国
正答
B: 中所得国
ネガティブ本能「世界はどんどん悪くなっている」?
第2章で取り上げられたのは、「ネガティブ本能」です。
「世界はどんどん悪くなっている」と多くの人が思い込んでいるとのこと。
人間は、ポジティブな面よりネガティブな面に注目しやすいという本能があると指摘しています。
また、悪いニュースの方が注目を浴びやすいので、メディアが好んで取り上げるといった面もあります。
『ファクトフルネス』第3問
第3問
In the last 20 years, the proportion of the world population living in extreme poverty has ...
A: almost doubled
B: remained more or less the same
C: almost halved
日本語訳
世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A: 約2倍になった
B: あまり変わっていない
C: 約半分になった
正答
C: 約半分になった
『ファクトフルネス』第4問
第4問
What is the life expectancy of the world today?
A: 50 years
B: 60 years
C: 70 years
日本語訳
世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう?
A: 50 歳
B: 60 歳
C: 70 歳
正答
C: 70 歳
直線本能「世界の人口はひたすら増え続ける」?
第3章では、「直線本能」です。
グラフは、このまま真っ直ぐに伸び続けるだろうと思い込んでしまうというもの。例としては、世界人口です。このまま直線的に増え続けると、本能的に予測してしまうというものです。
さて、そんな本能に気をつけて、改めて次のクイズに答えてみてください。
『ファクトフルネス』第5問
第5問
There are 2 billion children in the world today, aged 0 to 15 years old. How many children will there be in the year 2100, according to the United Nations?
A: 4 billion
B: 3 billion
C: 2 billion
日本語訳
15歳未満の子供は、現在世界に約20億人います。国連の予測によると、2100年に子供の数は約何人になるでしょう?
A: 40億人
B: 30億人
C: 20億人
正答
C: 20億人
『ファクトフルネス』第6問
第6問
The UN predicts that by 2100 the world population will have increased by another 4 billion people. What is the main reason?
A: There will be more children (age below 15)
B: There will be more adults (age 15 to 74)
C: There will more very old people (age 75 and older)
日本語訳
国連の予測によると、2100年にはいまより人口が40億人増えるとされています。人口が増える最も大きな理由は何でしょう?
A: 子供(15歳未満)が増えるから
B: 大人(15歳から74歳)が増えるから
C: 後期高齢者(75歳以上)が増えるから
正答
B: 大人(15歳から74歳)が増えるから
恐怖本能「危険でないことを恐ろしいと考えてしまう」?
第4章では、「恐怖本能」について書かれてあります。
世界を実際よりも恐ろしくみてしまう、というものです。メディアや自分自身の関心によって、恐ろしい情報ばかり目にする機会が多いことが影響しているとのことです。
『ファクトフルネス』第7問:正答率10%
第7問
How did the number of deaths per year from natural disasters change over the last hundred years?
A: More than doubled
B: Remained more or less the same
C: Decreased to less than half
日本語訳
自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年でどう変化したでしょう?
A: 2倍になった
B: あまり変わっていない
C: 半分以下になった
正答
C: 半分以下になった
過大視本能「目の前の数字がいちばん重要だ」?
第5章では、「過大視本能」についてです。
ひとつの数字を見て、全体を判断してしまう、というもの。
他のデータと比較することを推奨しています。
『ファクトフルネス』第8問
第8問
There are roughly 7 billion people in the world today. Which map shows best where they live?

出典:Gapminder, Fact Question 8
日本語訳
現在、世界には約70億人の人がいます。下の地図では、人の印がそれぞれ10億人を表しています。世界の人口分布を正しく表しているのは3つのうちどれでしょう?
正答
A

出典:Gapminder, Fact Question 8
図は以下のGapminderのサイトから、転用させていただきました。
パターン化本能「一つの例がすべてに当てはまる」?
第6章では、「パターン化本能」についてです。
何も考えず無意識に、物事をパターンに当てはめてしまうというものです。
『ファクトフルネス』第9問
第9問
How many of the worlds 1-year-old children today have been vaccinated against some disease?
A: 20 percent
B: 50 percent
C: 80 percent
日本語訳
世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう?
A: 20 %
B: 50 %
C: 80 %
正答
C: 80 %
宿命本能「すべてはあらかじめ決まっている」?
第7章では、「宿命本能」についてです。
持って生まれた宿命によって、人、国、宗教、文化の行方は決まると、思い込んでしまうものです。
『ファクトフルネス』第10問
第10問
Worldwide, 30-year-old-men have spent 10 years in school, on average. How many years have women of the same age spent in school?
A: 9 years
B: 6 years
C: 3 years
日本語訳
世界中の30歳男性は、平均10年間の学校教育を受けています。同じ年の女性は何年間学校教育を受けているでしょう?
A: 9年間
B: 6年間
C: 3年間
正答
A: 9年間
単純化本能「世界はひとつの切り口で理解できる」?
第8章は、「単純化本能」についてでした。
すべての問題がひとつのやり方で解決できると思い込んでしまう、というのです。
「子供にトンカチを持たせると、なんでも釘に見える」ということわざがあるそうです。個人的に、この表現がツボにハマりました。「ですよね〜」と実感。
『ファクトフルネス』第11問
第11問
In 1996, tigers, giant pandas, and black rhinos were all listed as endangered. How many of these three species are more critically endangered today?
A: Two of them
B: One of them
C: None of them
日本語訳
1996年には、トラとジャイアントパンダとクロサイはいずれも絶滅危惧種として指定されていました。この3つのうち、当時よりも絶滅の危機に瀕している動物はいくつでしょう?
A: 2つ
B: ひとつ
C: ゼロ
正答
C: None of them
C: ゼロ
犯人探し本能「誰かを責めれば物事は解決する」?
第9章は、「犯人探し本能」です。
何か悪いことが起こった時に、単純明快な理由を見つけたくなってしまう本能のことです。
『ファクトフルネス』第12問
第12問
How many people in the world have some access to electricity?
A: 20%
B: 50%
C: 80%
日本語訳
いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいるでしょう?
A: 20%
B: 50%
C: 80%
正答
C: 80%
焦り本能「いますぐ手を打たないと大変なことになる」?
第10章は、「焦り本能」についてです。
「いますぐ決断し、行動しないと大変なことになる」と思うと、冷静な判断ができなくなります。
この章で、ハンスが35年間誰にも話せなかった事件を告白しています。
また、地球温暖化を世界に広く知らせた元アメリカ副大統領アル・ゴア(ノーベル平和賞受賞、ブッシュとの大統領選挙でも話題)とのやりとりも、興味深かったです。
『ファクトフルネス』第13問
第13問
Global climate experts believe that, over the next 100 years, the average temperature will...
A: get warmer
B: remain the same
C: get colder
日本語訳
グローバルな気候の専門家は、これからの100年で、地球の平均気温はどうなると考えているでしょう?
A: 暖かくなる
B: 変わらない
C: 寒くなる
正答
A: get warmer
A: 暖かくなる
まとめ
話題の本、『ファクトフルネス』を、12の質問を通して、大まかに紹介してみました。
この本は、実際読んでみていただくと分かるかと思いますが、今回紹介した以上のデータがわんさか掲載されています。論文を書く、顧客に説明する時など、大変重宝すると思います。
自分自身の目で、データを見ることも大切ですよね。
ご興味持たれたら、ぜひ手に取ってこの本を読んでいただきたいです。
『ファクトフルネス』リンク集
ハンス・ロスリング、そしてギャップマインダーは、もう信じられないくらい、無料でデータを公表しています。
Gapminder(ギャップマインダー)のHP
データの宝庫です。論文やレポートなど書く際に、大変役に立ちます。
ハンス・ロスリングのTED Talksでの講演すべて10つ
やはりこれは見ておいた方がいいでしょう。人に伝える時には、スピーカーの情熱がとても重要なことに改めて気付かされます。そして、プレゼンの準備、ですね。
1. 「最高の統計について披露」2006年2月
2. 「貧困に対する新たな洞察を示します」 2007年3月
ハンスは、剣飲みの芸を、このスピーチの最後で披露しています。
3.「HIV考察:新たな事実と驚愕のビジュアルデータ」2009年2月
4.「私のデータセットであなたのマインドセットを変えてみせます」2009年6月
5.「アジアの台頭は果たしていつか?」2009年11月
6.「地球規模の人口増加について」 2010年6月
7.「10年の良いニュース?」2010年9月
8.「魔法の洗濯機」2010年12月
9.「宗教と赤ちゃん」2012年4月
10.「世界について無知にならないために」2014年4月
息子オーラとの共演
『ファクトフルネス』ウェブ脚注 (共訳者:上杉周作によるウェブ脚注の日本語訳)
本にも21ページ分の脚注が訳されていますが、こちらは拡張版。なんと7万字文字以上の脚注です。本の脚注が、約2万5000文字ですから、なんと本より2.8倍多い注釈です。
また、参考リンクも収録されているので、直接関連サイトに行けるのは、とても便利です。本ですと、自分でアドレスを打ち込まなくてはいけなかったりするので、若干億劫ですよね。
脚注を訳すのはとても時間のかかる地道な作業かと推測しますが、丁寧に訳してくださった訳者の一人、上杉周作に改めて感謝です。
『ファクトフルネス』書評のまとめ(訳者の一人:上杉周作によるまとめ)
『ファクトフルネス』の翻訳本ができるまで
Gapminder Tool
ドル・ストリート
最後まで読んでくださり、どうもありがとうございました。