心に響くスピーチ

キング牧師:暗殺前日の最後の演説

キング牧師の有名な演説といえば「私には夢がある!」ですが、亡くなる前日に、キング牧師が気迫あふれる最後のスピーチをしたのをご存知でしょうか。

"I have a dream!"とワシントン大行進

キング牧師のラストスピーチをご存知の方は、もしかしたら少ないかもしれませんが、「私には夢がある( "I have a dream!")」は誰もが聴いたことのある有名なスピーチではないでしょうか。

出典:Wikipedia

このスピーチは、マーティン・ルーサー・キングJr. 牧師が、ワシントン大行進(the March on Washington for jobs and freedom: 1963年8月28日、ワシントンD. C.で行われた人種差別撤廃デモ)で発信されたものです。このワシントン大行進には、実に20万人を超える人々が参加しました。

出典:Wikipedia

と言っても、数字オンチな私には「20万人」と言われても全くピンときません。

ということで、調べてみました。

20万人ってどれくらい?

  • 東京ドーム収容人数(55,000人)の3.6倍
  • グアムの人口(18万人弱:2018年)より多い
  • 渋谷区の人口(23万人弱:2015年)より若干少ない

くらいでしょうか。……。

上記の写真で確認してみても、確かにデモ参加者としては多いですよね。

"I have a dream" 同年にJ. F. ケネディ暗殺

ワシントン大行進が行われた年に、J. F. ケネディが暗殺されました(1963年11月22日)。

ケネディが主張していた公民権立法を支持する形で、ワシントン大行進が行われたのに、その3か月後に大統領が暗殺されることになってしまいます。

出典:Wikipedia

非暴力運動の影響

ガンジー

キング牧師は、黒人と白人が平等に暮らしていける社会を目指していました。

手本にした人物は、非暴力で独立を成し遂げたインド独立の父、ガンジー(Mahatma Gandhi: 1869-1948)です。

キング牧師は、ガンジーの非暴力運動に影響を受けたことにより、暴力で不平等を解決しようとせず、デモ行進などで自分の主張をしたのです。

出典:Wikipedia

 

マルコムX暗殺される

でも、最初は支持を集めていた非暴力運動でしたが、なかなか目に見える成果を出せなかったため、黒人のなかからもキング牧師の非暴力運動に批判的な立場の人も出てきました。

マルコムX、ストークリー・カーマイケル、ブラックパンサー党などが代表的な例でしょう。

そして、マルコムXも暗殺される事態となりました。

出典:Wikipedia

 

暗殺が続く六〇年代アメリカ

1960年代のアメリカは、主要人物が連続して暗殺されました。激動の時代でした。表にして確認してみましょう。

月日 人物
1963年 11月22日 J. F. ケネディ 暗殺
1965年 2月21日 マルコムX 暗殺
1968年 4月4日 マーティン・ルーサー・キング Jr. 牧師 暗殺
1968年  6月6日 ロバート・ケネディ(JFKの実弟)死去(前日に暗殺)

こんな時代の流れで、キング牧師は暗殺されたのでした。

ワシントン大行進、ケネディ暗殺の5年後、1968年4月4日のことでした。

キング牧師 暗殺前日(4月3日)のスピーチ映像

暗殺される前日4月3日に、キング牧師は最後のスピーチをします。

この演説、すごいです。鳥肌ものです。あたかも自分が死ぬことを予期していたかのようです。

そして、とある人物とキング牧師を重ね合わせることもできます。そのことについては、映像と英語&和訳の下に書きたいと思います。まずは映像と内容をご確認ください。

 

英語&和訳

We've got some difficult days ahead. But it really doesn't matter me now. Because I've been to the mountaintop.

前途に困難な日々が待っています。でも、もうどうでもいいのです。私は山の頂上に登ってきたのですから。

 

And I don't mind...... Like anybody, I would like to live a long life. Longevity has its place. But I'm not concerned about that now. I just want to do God's will. And He's allowed me to go up  to the mountain. And I've looked seen the Promised Land.

どうでもいいのです……。皆さんと同じように、私も長生きしたい。長生きするのも悪くはないのですが、今の私にはどうでもいいのです。ただ神の意志を実現したいだけです。神は私に山を登るのを許してくださいました。そして私は見渡したのです。そこで私は約束の地を見たのです。

注:続けて言おうとしたところ、拍手で遮られてしまいましたね。おそらく「長生きしようとしまいが、気にしない。どうでもいいのだ、そんなことは」みたいなことをいいかけたのだと思います。

I may not get there with you. But I want you to know tonight, that we, as a people, will get to the Promised Land.

私は皆さんと一緒にその地へ行けないかもしれません。でも、今夜、皆さんに知っておいていただきたいことがあります。それは、ひとつの民として私たちは約束の地に行くことができる、ということです。

And so I'm happy tonight. I'm not worried about anything. I'm not fearing any man. My eyes have seen the glory of the coming of the Lord.

だから、今宵私は幸せなのです。私は何も心配していません。私は誰も恐れていません。神の再臨の栄光を、私はこの目で見たのですから!

映像解説

いかがだったでしょうか。すごい迫力ですよね。

ところで、上の英語のところで、太字でいくつか強調しておきましたが、この箇所から、キング牧師とある人物が重なるような気がしませんか?

その人物とは……

出典:Wikipedia 『モーセの十戒』レンブラント画

そう、旧約聖書の『出エジプト記』から『申命記』まで登場するモーセです。

モーセは神からシナイ山で10の戒め(十戒)を賜った人として聖書では描かれています。

聖書によれば、エジプトの王ファラオは、ヘブライ人があまりにも多くなり、反逆を恐れるようになったため、ヘブライ人の新生児(男児)をすべて殺すように命じます。

当時、エジプトに住むヘブライ人は、奴隷として扱われていました。モーセはヘブライ人から生まれますが、難を逃れるため母親が赤子のモーセを籠の中に入れ、ナイル川に流すことにしました。結果、ファラオの王女に拾われて育てられることになるのです。

ですが、神はモーセに命じます。「奴隷として苦しむヘブライの民をエジプトから連れ出し、アブラハムの子孫に与えると約束した土地カナンへ導くように」と。

そして、モーセは様々な困難を経て、長い年月をかけて、ヘブライ人をエジプトから脱出させ、約束の地カナンへと導いていくわけです。

そしてとうとう目の前に約束の地、カナンが。

そころが、モーセがメリバの泉で神の命令を守らなかったことから、モーセは約束の地へたどり着くことを許されませんでした。

しかし、ネボ山(ピスガの山頂)から約束の地を見渡すことだけは、神はモーセに許されたのです。

そして、モーセは神の命令通り、約束の地へ足を踏み入れることなく、亡くなったのでした。(『申命記』34章

キング牧師とモーセ

さて。モーセのことをざっとおさらいしてみたので、改めてキング牧師のラストスピーチを振り返ってみましょう。

キング牧師は「モーセ」と「自分自身」を重ね合わせているのがわかりますよね。

モーセは、奴隷だったヘブライ人たちを、平和に暮らせる約束の地カナンへ導いていったわけです。

キング牧師も、奴隷として連れてこられたアフリカ系アメリカ人が平和に平等に暮らせる社会(=約束の地)で暮らせるよう力を尽くしてきたのです。

キング牧師がこの演説をした翌日に暗殺されることになると、キング本人が予感していたのかどうかは勿論わかりませんが、どこかで、モーセと同じように、約束の地へ自分は行けないと、悟っていたのかもしれません。

まとめ

1960年代のアメリカ、はあまりにも激動の時代でした。先ほど表で確認したように、J. F.ケネディも、弟のロバート・ケネディも、マルコムXも暗殺されます。

自分が生きている間、白人も黒人も平等に生きられる社会が実現できることは困難だと、どこかでキング牧師は感じていたのかもしれません。

でも、このスピーチの素晴らしいところは、「私が生きている間、平等社会の実現は不可能かもしれない。だが、平和で平等に暮らせる社会は、必ず実現可能なのだ!」と、多くの人に力強く語りかけ、ビジョンを共有したことだと思います。

そして、このメッセージは後世の世代に語り継がれていくことになるのです。

<追記:その1>

マイケル・ジャクソン『マン・イン・ザ・ミラー』のショートフィルムに、キング牧師の最後の演説の映像が使用されています。

<追記:その2>

『映像の世紀』(第9集ベトナムの衝撃 アメリカ社会が揺らぎ始めた)で、1960年代アメリカの様子が当時の映像で確認できます。NHKオンデマンドで観ることができます。

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